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浦和地方裁判所 昭和53年(ワ)486号 判決

原告 尾形清

右訴訟代理人弁護士 石川憲彦

石崎和彦

被告 株式会社 クローバ商事

右代表者代表取締役 鈴木恒夫

右訴訟代理人弁護士 高橋治雄

被告 蓮見健樹

右訴訟代理人弁護士 青木孝

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自六四五四万三〇〇〇円及び内金六〇〇〇万円に対して昭和五二年六月一九日以降、内金四五四万三〇〇〇円に対して本判決確定の日の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  (当事者)

(一) 原告は、昭和五二年四月被告株式会社クローバ商事(以下「被告会社」という。)に入社し、大宮市宮町一丁目四六番地所在の蓮見ビル一階、被告会社経営の飲食店「たぬき」において板前見習として業務に従事していた。

(二) 被告蓮見健樹(以下「被告蓮見」という。)は、蓮見ビル並びに同ビル一階のガレージ(以下「本件ガレージ」という。)、及び同ガレージのシャッター(以下「本件シャッター」という。)の所有者である。

2  (事故の発生)

原告は、昭和五二年六月一八日午前〇時三〇分頃、本件シャッターを開けようとして同シャッターの外から腕を差し入れてシャッターボタンを押したところ、同シャッターの鉄格子の間隔が狭いことと同シャッターが上昇し始めたため腕が抜けなくなり、そのまま身体全体を吊り上げられ、同シャッターと戸袋に挾まれ、右上腕切断、右上腕左上肢挫創傷等の傷害を負った(以下、「本件事故」という。)。

3  (被告会社の責任)

(一) 工作物責任

(1) 本件シャッターは、土地の工作物である。

(2) 被告会社は、本件シャッターを占有していた。

(3) 本件シャッターは、本来、同シャッターの内部から操作するように設置されているもので、外部からの開閉は予定していないシャッターである。

本件シャッターは電動シャッターであり、電気動力をもって開閉するものであるため降下及び上昇する力は強力であり、上昇及び下降の途中でこれを阻止することは人間の力では不可能であって、同シャッターの外から腕を入れて操作することは極めて危険であるうえ、蓮見ビルは、一階部分の全ての出入り口には、本件シャッターと同様の電動シャッターが設置されており、シャッターを開閉することなしには出入でりきない建物構造であった。

しかるに、被告会社は、原告を含む従業員に対し、店を開けておくことを指示しながら、外部からスイッチを操作する以外に何等の開ける方法も指示せず、外部から開閉することの危険性を周知徹底させたり、外部からの開閉を禁止する等の指示さえしなかった。

したがって、本件シャッターの設置・保存には瑕疵があった。

(4) 本件事故は右(3)記載のとおりの本件シャッターの設置・保存の瑕疵から生じたものであり、被告会社には民法七一七条の責任がある。

(二) 債務不履行責任

(1) 被告会社は、原告と労働契約を締結し、原告を指揮、監督し「たぬき」の営業に従事させていた。このような場合、被告会社は、労働者の生命、身体、健康を保護し、労災死傷病事故の発生を万全の措置を講じて防止する義務(安全保護義務)を負う。

(2) 被告会社は、右義務に基き、次のような措置を講ずる義務があった。

ア 従業員に対し、本件シャッターが閉っている場合には、同シャッターの外から腕を入れて同シャッターを開けることは危険であるから、これを禁止する義務。

イ 右アの義務にのっとり、具体的な安全教育を行なうなど、万全な措置をとる義務。

(3) しかるに、被告会社は、右アの義務については、本件シャッターの外から腕を入れて同シャッターを開けることを禁止せず、逆に同シャッターの外から腕を差入れて開けるよう指示してこれを怠り、右イの義務も怠って、本件事故を発生させた。

(4) 本件事故は、被告会社の指揮・監督下において発生したものである。

(5) よって、被告会社は、民法四一五条に基き損害賠償の責任がある。

(三) 不法行為責任

被告会社は、条理上、右(二)、(2)、ア、イの措置を講ずる注意義務があり、被告会社はこれを怠ったのであるから、民法七〇九条に基き損害賠償の責任がある。

4  (被告蓮見の責任)

(一) 被告蓮見は、本件ガレージ及び本件シャッターの所有者、占有者である。

(二) 本件シャッターには3(一)(3)のとおり設置の瑕疵があり、蓮見ビル内部においてスイッチを操作してシャッターを開閉する者を置かない限り他人を出入りさせることに危険を伴うのにもかかわらず、被告蓮見は、蓮見ビル一階部分を、建物内部から開閉スイッチを操作し、管理する者をもうけることなく、被告会社に飲食店舗として賃貸した。

そして、被告蓮見は、右賃貸により本件シャッターを被告会社の利用に供するのにあたって、同シャッターの危険性を説明して危険な開閉方法を禁止することもせず、賃貸後も、被告会社及びその従業員が危険な方法で開閉していないか否かを監視して、危険な方法で開閉することを禁止するどころか、外部から操作する以外、出入りできない管理方法をとってきた。

(三) 本件事故は右(二)記載のとおりの本件シャッターの設置・保存の瑕疵から生じたものであり、被告蓮見には民法七一七条の責任がある。

5  (損害)

(一) (後遺症)

原告は、本件事故にあうまでは、極めて健康な男子労働者として稼働し、妻子と共に平穏な生活を送っていたが、――本件事故による傷害によって、昭和五二年八月一〇日、埼玉県より身体障害者等級表による等級二級の認定を受けた。

右は労働基準法における身体障害等級においては、四級に該当する後遺障害である。

(二) 得べかりし利益

(1) 原告は、本件事故当時二五歳の健康な男子労働者であったが、右(一)の後遺障害を受け、労働能力の九二パーセントを喪失し、原告が将来稼働して得られる賃金収入も同率の割合において得られなくなった。

(2) 原告は、本件事故当時板前見習いということであったので一か月の実収は約一〇万円程度であったが、通常、見習期間は三年ないし五年であるから、原告の見習期間も、長く見積っても五年である。そして、その間の賃金は年平均一〇パーセント以上の昇給は確実であるから、原告はそれに相当する収入を得られたはずである。また、見習期間後は、板前として少なくとも、賃金センサスによる全産業労働者の平均給与額を得られたであろうことは確実である。労働省労働統計調査部賃金統計課発行の「賃金センサス」第一表によれば、全産業、企業規模計、全産計、学歴計、全年令、全男子労働者平均給与額は、昭和五〇年度は年間二三七万〇四〇〇円である。更に、我国においては、ほとんどの民間企業において毎年のベースアップが行なわれており、その昇給率は一〇パーセントを下らない。したがって、原告の得られたであろう賃金も毎年少なくとも一〇パーセントの昇給した金額であることは確実である。

(3) よって、稼働終了時期を六七才として、定年令(五五才)以後の収入は定年時の収入の三分の二として以後その収入を固定することとし、中間利息を新ホフマン式計算方法により控除して計算すると、別表得べかりし賃金計算表のとおり合計一億六〇六四万一八〇〇円となる。

(三) 入院雑費

原告は、昭和五二年六月一八日から同年七月二八日まで入院治療し、入院諸雑費一日五〇〇円、合計二万〇五〇〇円の損害を受けた。

(四) 慰藉料

原告は、本件事故によって右腕切断等の傷害を受け、生涯義手をつけた生活を余儀なくされ、そのため、子供を一人で抱くこともできず、一人で服を着ることもできず、日常生活上も多大な支障を来たし、その精神的苦痛は深く長期に、生涯に及ぶ。この苦痛を慰藉する慰藉料としては、少なくとも一〇〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用

原告は、本件訴訟代理人らに被告らに対する訴訟の追行を委任し、勝訴の場合、日本弁護士連合会報酬等基準規程に基く手数料及び謝金を支払う旨約束しているので、少なくとも手数料及び謝金をあわせて同規程の最低である四五四万三〇〇〇円については本件事故と相当因果関係にある。

6  (結論)

よって、原告は被告ら各自に対し、損害賠償として、右5(二)ないし(五)の合計金一億七五二〇万五三〇〇円の内金六四五四万三〇〇〇円及び内金六〇〇〇万円に対し本件事故発生の翌日である昭和五二年六月一九日以降、内弁護士費用金四五四万三〇〇〇円に対し本判決確定の日の翌日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの認否

(被告会社)

1 請求原因1(当事者)の事実は認める。

2 同2(事故の発生)の事実のうち、原告がその主張の日時にその主張の傷害を負ったことは認め、その余は知らない。

3 同3(被告会社の責任)及び5(損害)は争う。

(一) 本件事故は、「たぬき」の営業時間内に起ったのでもなければ、原告が従事する仕事に関して生じたのでもない。

したがって、原告の受傷は、被告会社における同人の業務と相当因果関係がない。

(二) また、原告は、深夜の午前〇時三〇分ころ必要もないのに、本来の用法でない方法で本件シャッターを操作して「たぬき」に入ろうとしたのであり、その態様自体穏当を欠く(本件シャッターの外側から腕を差し込んで、内側にあるスイッチを押すという方法は、本件シャッター操作の本来の用法でないのみならず、そのような操作を被告会社は禁止していた。蓮見ビルには、管理人がおり、インターホンで呼べば通じるようになっているから、管理人によって開閉を求め入店することが容易であった。)うえ、本件シャッターの開閉に要する時間は、全部開けて全部閉じるまで三二秒であり、原告が腕を差し入れた部分が天井に届くまで一五秒であって、差し入れた腕を引抜くに決して不十分な時間ではないのにもかかわらず、本件事故の際、原告が差し入れた腕を抜くことができなかったのは、原告が、本件事故当時相当量の飲酒をしていたため、腕を抜くことについての判断をあやまり、かつ、引き抜く動作がいちじるしく緩慢だったからである。

したがって、本件事故は、原告の不注意に起因する自招傷害である。

(被告蓮見)

1 請求原因1(当事者)の事実は認める。

2 同2(事故の発生)の事実は知らない。

3 同4(被告蓮見の責任)のうち、(一)の事実は認める。その余は争う。

本件シャッター及びボタン位置等はすべて安全に作られており、通常の用法において使用すれば何ら危険がない。

すなわち、本件シャッターの通常のあけ方はガレージの右隣に隣接する入口から入りすぐ左扉からガレージに入りガレージの中からシャッターボックスの前に行ってシャッターを操作すべきものである。

それにもかかわらずシャッターの間から手を差し入れシャッターボックスのボタンを操作しようとした原告に基本的な用法違反がある。

更に、本件シャッターの格子の間に手を入れて、シャッターボタンを操作すること自体は本来の用法とは全く異なるが、操作者が冷静であればそれほど危険を伴うものではない。本件事故が発生した原因はひとえに原告が当日泥酔の上で時間外の深夜にシャッター操作をして本件建物に入ろうとしたことに基く。

第三証拠関係《省略》

理由

一1  原告が、昭和五二年四月被告会社に入社し、大宮市宮町一丁目四六番地所在の蓮見ビル一階、被告会社経営の飲食店「たぬき」において板前見習として業務に従事していたこと、被告蓮見が蓮見ビル並びに本件ガレージ及び本件シャッターの所有者であることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  原告が、昭和五二年六月一八日午前〇時三〇分頃、本件シャッターを開けようとして同シャッターの外から腕を差し入れてシャッターボタンを押したところ、同シャッターの鉄格子の間隔が狭いことと同シャッターが上昇し始めたため腕が抜けなくなり、そのまま身体全体を吊り上げられ、同シャッターと戸袋に挾まれ、右上腕切断、右上腕左上肢挫創傷等の傷害を負った事実は、《証拠省略》によりこれを認める。右認定に反する証拠はない(原告が、昭和五二年六月一八日午前〇時三〇分頃、右上腕切断、右上腕左上肢挫創傷等の傷害を負ったことは、原告と被告会社との間に争いがない。)。

二  請求原因3(被告会社の責任)について

1  蓮見ビル及び本件シャッターの構造等

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  蓮見ビルは、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建、床面積一階一六五・一七平方メートル、二階一五二・七五平方メートル、三階一六七・六〇平方メートル、四階一二三・〇八平方メートル、五階七九・三五平方メートルの建物で、出入口は、一階東側に一階店舗用の玄関及び二階に通じる階段入口の二か所、北側にガレージ(本件ガレージ)入口及び同ガレージ横の入口(以下「H入口」という。)の二か所の合計四か所である。

(二)  本件シャッターは、本件ガレージ入口に取付けられているもので、電気動力により作動するいわゆる電動シャッターである。そして、シャッター部分はいわゆるパイプシャッターであって、直径約一・六センチメートルのステンレスパイプを約五・四センチメートル間隔で横列させた格子状の構造を有する。

本件シャッターは、本件ガレージの内部から操作することが設計当初から予定されており、本件シャッターが閉まっているときに外部から入るには、H入口から入り(H入口横にはインターホンが取付けられており、蓮見ビルの管理人室に通じていた。)、本件ガレージ内部に回ってから本件シャッターを操作することが前提とされていて、本件シャッターのスイッチボックスは、本件ガレージ入口の東側コンクリート柱の内側、床上一二〇センチメートル、本件シャッターと右コンクリート柱との境界から一三センチメートルの位置に取付けられている。(本件シャッターの外部にはスイッチは取付けられていない。)。

なお、本件シャッターの開閉に要する時間は、全開状態から全閉に至るまでに要する時間も、逆に全閉状態から全開に至るまでに要する時間も、ともに三二秒である。

(三)  本件シャッターの外部からでも、前記横列したステンレスパイプのすき間から手をさしこめば、本件シャッターのスイッチボタンを操作することは不可能ではないが、ステンレスパイプのすき間が狭く、かつ、腕の肘までさしこまないと操作できないため、シャッターが上がりはじめると、さしこんだ腕が抜けなくなる危険がある。

(四)  蓮見ビルのその余の出入口にもすべて本件シャッターと同様のシャッターが取付けられており、いずれも蓮見ビル内部から操作するように設計・施工されている。

2  土地工作物の瑕疵について

以上の各事実を前提として判断するのに、本件シャッターが民法七一七条一項の規定する土地の工作物に該当するものであることは明らかであるが、本件シャッターに設置・保存の瑕疵があるということはできない。

なるほど、《証拠省略》を総合すると、蓮見ビルのように入口全部に内部からしか操作し得ないシャッターを設置し、かつ、建物の一部を賃貸する場合には、シャッターの一つ、あるいは全部の開閉を内、外から行なうことができるようにするとか、当該建物に管理人を常駐させ賃借人が必要に応じて管理人を呼び出して開けてもらえるシステムをとるのでなければ利用上の不便を生ずること、原告を含む「たぬき」の従業員らは、蓮見ビルの管理人室をH入口横のインターホンで呼び出すことができることを知らなかったため、「たぬき」の従業員らにおいて本件シャッターが日曜、祭日等に閉まっているときなどに数回本件シャッターの外部から手をさしこんで本件シャッターを操作したことがあることの各事実は、これを認めることができる。

しかしながら、前記認定事実からすると、本件シャッターの外部から手をさしこんで本件シャッターを操作することが極めて危険であることは、本件事故の発生に徴するまでもなく一見して明白であって、かつ、そのような操作方法が本来予定されていないことも明らかである。そして、それは、通常人において容易に看取し得るものであって、格別に、本件シャッターを外部から手をさしこんで操作する方法が本来の操作方法でないこと、あるいはそのような操作方法が極めて危険な操作方法であることの注意を喚起しなければ通常人がその危険性を看過する可能性があるというものではない(《証拠省略》によれば、原告本人自身も、本件シャッターの外部から手をさしこんで本件シャッターを操作することに危険を感じていたことが認められる。)。

したがって、本件シャッターを外部から操作することが不可能ではない位置に本件シャッターのスイッチボックスを設置したからといって、本件シャッターに設置・保存の瑕疵があるということは到底できないし、建物の入口全部に内部からしか操作し得ないシャッターを設置することによって利用上の不便が生じるとしても、本件シャッターの設置・保存の瑕疵とは何ら関係がないといわざるを得ない(そのような利用上の不便から、本件シャッターを外部から手をさしこんで操作することが許容されるものではないし、これが許容されないことは、通常人にとり容易に看過し得るところである。)。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告会社に民法七一七条一項前段の責任はない。

3  債務不履行責任について

原告が被告会社経営の飲食店「たぬき」において板前見習として業務に従事していたことは前記のとおりであり、このような場合、被告会社は、労働契約に伴なう付随義務として原告に対しその生命、身体、健康を保護し、労災死傷病事故の発生を防止する義務を負うというべきであるが、右の義務は、被用者たる原告が、被告会社の指揮・監督に服しつつ、誠実に業務遂行にあたるべき義務に対する反対給付として信義則上認められるものであるから、ある危険が発生した場合、当該業務と右危険発生との間に客観的な相当因果関係が認められることが必要であり、したがって、当該業務とは全く無関係な、純然たる私的行為により発生する危険まで包含するものでないことは勿論である。

《証拠省略》によると、本件事故の前日、「たぬき」での仕事が終わった後、午後一〇時半すぎ頃、原告は、「たぬき」の板長の奥山正広、板前の井上正一の二人(本件事故当時、「たぬき」の調理場で仕事をしていたのは右の三名であった。)と共に蓮見ビルの近くのスナックバー「パール」に行き、一時間程の間にビール二本位を飲んだこと、その後井上は帰り、原告と奥山は、更に、赤提灯「おおとり」に行き、原告は食事をしたこと(「パール」及び「おおとり」では仕事場の仲間であるから多少仕事の話は出た。)、原告は「おおとり」で奥山と別れ、一旦、大宮駅前まで行ったが、忘れ物を思い出して蓮見ビルに戻り、本件シャッターを開けようとして本件事故が発生したことの各事実が認められる。

右事実からすると、原告が本件シャッターを開けようとしたことは、業務遂行の目的とは到底いえないし、業務と何らかの関連があるともいえない。したがって、本件事故は、原告の私的行為によって発生したものというべく、このような場合にまで被告会社は安全配慮義務を負うものではないから、その余の点について判断するまでもなく、被告会社に債務不履行責任はない。

4  不法行為責任について

原告は、被告会社には、条理上、従業員に対し、本件シャッターが閉っている場合には、同シャッターの外から腕を入れて同シャッターを開けることを禁止し、かつ、具体的な安全教育を行なう義務があった旨主張するが、本件シャッターに設置・保存の瑕疵があるといえないことは前説示のとおりであり、本件全証拠によっても被告会社が原告に対し、本件シャッターを外部から手を差しこんで操作することを積極的に指示した事実を認めることはできない。加えて、前記の本件事故発生に至る経緯に鑑みると、被告会社に、条理上、原告主張の義務を認めることはできない。

したがって、被告会社に不法行為責任を認めることはできない。

四  請求原因4(被告蓮見の責任)について

本件シャッターに設置・保存の瑕疵があるといえないことは前説示のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告蓮見に民法七一七条の責任はない。

五  結論

以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 手代木進 裁判官 一宮なほみ 綿引穣)

〈以下省略〉

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